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大阪地方裁判所 平成11年(ワ)11093号 判決

原告

米村昌倫

ほか二名

被告

仲谷昌和

ほか二名

主文

一  被告仲谷昌和、被告森敏雄は連帯して、原告米村幸純に対し金三二二〇万八三三九円及び内金三一一八万一〇七二円に対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告米村純子に対し金三二二〇万八三三九円及び内金三一一八万一〇七二円に対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告米村昌倫に対し金五五万円及びこれに対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  被告住友海上火災保険株式会社は、被告仲谷昌和及び被告森敏雄に対する判決が確定したときは、原告米村幸純に対し金三二二〇万八三三九円及び内金三一一八万一〇七二円に対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告米村純子に対し金三二二〇万八三三九円及び内金三一一八万一〇七二円に対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告米村昌倫に対し金五五万円及びこれに対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

三  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は、これを一〇分し、その五を原告らの負担とし、その五を被告らの負担とする。

五  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  被告仲谷昌和、被告森敏雄は連帯して、原告米村幸純に対し金七八三七万三〇七一円及び内金七七三四万五八〇四円に対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告米村純子に対し金八九三七万三〇七一円及び内金八八三四万五八〇四円に対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告米村昌倫に対し金一一〇万円及びこれに対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

二  被告住友海上火災保険株式会社は、被告仲谷昌和及び被告森敏雄に対する判決が確定したときは、原告米村幸純に対し金七八三七万三〇七一円及び内金七七三四万五八〇四円に対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告米村純子に対し金八九三七万三〇七一円及び内金八八三四万五八〇四円に対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員を、原告米村昌倫に対し金一一〇万円及びこれに対する平成八年一二月九日から支払済みまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。

(なお、原告らは、被告住友海上火災保険株式会社に対し、そのほかの被告らに対する判決が確定したことを条件として支払を求める趣旨であると理解することができる。)

第二事案の概要

一  訴訟の対象

民法七〇九条(交通事故、死亡)、自賠法三条、民法七一五条、自動車保険契約

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実

1  交通事故の発生(甲一)

〈1〉 平成八年一二月九日(月曜日)午前八時五五分ころ(晴れ)

〈2〉 大阪府富田林市喜志町五丁目三七七番地の一先交差点(国道一七〇号)

〈3〉 被告仲谷昌和は、自家用大型貨物自動車(大阪一一つ五三七号)(以下、被告車両という。)を運転中

〈4〉 亡米村泰彦(昭和五一年六月三〇日生まれ、当時二〇歳)は、原動機付き自転車(大阪市阿倍野え四〇三三)(以下、原告車両という。)を運転中

〈5〉 詳細は後記のとおりであるが、対面信号が赤信号であるにもかかわらず交差点に進入した被告車両と対面信号が青信号であったので交差点に進入した原告車両が交差点内で衝突した。

2  死亡(甲三)

泰彦は、本件事故により、本件事故当日、死亡した。

3  相続(争いがない。)

原告米村幸純は、泰彦の父、原告米村純子は母であり、ともに泰彦の相続人であり、ほかに相続人はいない。

原告米村昌倫(昭和五六年一二月一日生まれ)は、泰彦の弟である。

4  責任(弁論の全趣旨)

被告仲谷は、対面信号が赤信号であるのだから、交差点の手前で停止すべきであったにもかかわらず、赤信号を無視して交差点に進入するなどした過失がある。したがって、民法七〇九条に基づき、損害賠償義務を負う。

被告森は、リース会社から被告車両をリースし、被告車両を自己のために運行の用に供していたから、自賠法三条に基づき、損害賠償義務を負う。また、被告森は、被告仲谷の使用者であり、被告仲谷が業務中に本件事故を起こしたから、民法七一五条に基づき、損害賠償義務を負う。

被告住友海上と被告森は自動車保険契約を締結し、その約款には、被告住友海上は、被保険者に対する判決が確定したときは、直接損害賠償請求権者に対し保険金を支払う旨の規定がある。

三  原告らの主張

事故態様については、被告仲谷は、最高速度が時速六〇kmに規制されていたにもかかわらず、時速七〇kmで進行し、さらに時速八〇kmに加速して交差点に進入した過失がある。したがって、被告仲谷は、信号無視のほか、著しいスピード違反の過失もある。

原告ら主張の損害は、別紙一のとおりである。

逸失利益については、預金金利の実情などに鑑み、年一・五%の割合で中間利息を控除すべきである。

四  中心的な争点

1  中心的な争点

事故態様、損害

2  被告らの主張

被告仲谷は、時速六〇kmで進行し、さらに時速七〇kmに加速して交差点に進入したにすぎない。

原告ら主張の損害を争う。

中間利息は、年五%の割合で控除すべきである。

第三事故態様に対する判断

一  証拠(甲九ないし一一、一六ないし一九、二二、二三)によれば、次の事実を認めることができる。

本件事故は、南北道路とこれに西側で交わる東西道路が交差する交差点で発生した。交差点には信号機が設置されている。南北道路の最高速度は、時速六〇kmに規制されている。

被告仲谷は、南北道路の南行き車線の第二車線を、時速約六〇kmで南進し、本件事故が発生した交差点にさしかかった。

交差点直前の停止線の約三二m手前に至ったとき、対面信号が赤信号で、第二車線の停止線手前に信号待ち車両が停車しているのを見つけた。しかし、第三車線(右折専用車線)に進路を変更し、時速約七〇kmに加速して、交差点に進入しようとした。このとき、対面信号に従い東西道路の東行き車線から南行き車線に右折を始め、交差点中央付近まで進行してきた原告車両を、前方約四三mに見つけたが、クラクションを鳴らしただけで、そのまま交差点に進入した。さらに約四〇m進み、交差点中央に至ったとき、原告車両が進路前方約一三mまで進んでいるのを見て、危険を感じ、急ブレーキをかけたが、間に合わず、被告車両の左側前部を原告車両に衝突させた。

二  これに対し、原告らは、被告仲谷が時速七〇kmで進行し、さらに時速八〇kmに加速して交差点に進入した旨の主張をする。

確かに、被告仲谷は、捜査段階において、本件事故当時、時速七〇kmで南進し、少し急いでいた旨の供述もしている(甲一六ないし一八)から、制限速度を若干越えて走行していた可能性は否定できない。しかし、最終的には時速六〇kmで南進し、交差点直前で加速した旨の供述をしている。また、急ブレーキをかけてから停止するまでの距離は約四〇mであると指示説明をしているが、この指示説明は前記供述にほぼ合致する。他方、スリップ痕など、時速七〇kmで南進し、時速八〇kmまで加速した事実を裏付ける客観的な証拠があるわけではない。したがって、被告車両は時速六〇kmで南進し、交差点直前で加速したと認めざるを得ず、原告らの主張を採用することはできない。

第四損害に対する判断

一  逸失利益

1  基礎収入

泰彦は、本件事故当時、二〇歳で、大阪芸術大学の二回生であった(弁論の全趣旨)。

したがって、基礎収入は、賃金センサス(男子、大学卒、全年齢、平成九年)六八七万七四〇〇円によることが相当である。

2  生活費控除

生活費控除は、五〇%が相当である。

3  期間

期間については、二二歳から六七歳までの四五年とすることが相当である。

中間利息の控除の方法は、ライプニッツ係数によることが相当である。

控除すべき利息の利率については、確かに、原告らが主張するとおり、現在の預金金利がきわめて低い金利となっていることが認められるとともに、逸失利益の算定における中間利息の控除と遅延損害金の利率は直接の関連性がないことを考えると、現在の金利の実情も考慮して控除すべき利率を認定する必要があると思われる。

しかし、原告らの主張によっても、金融機関の利率が五%以下になったのは平成四年前後からであり、それから本件の口頭弁論終結時までに一〇年弱しか経過していない。これに対し、本件では、前記のとおり、これから四五年間の逸失利益を認定しなければならないのであるから、現在の金利(長期の金利も含む。)を検討したとしても、その期間の利率を予測することはきわめて困難であり、いまだ原告らが主張するように年一・五%で控除することが相当であるとの心証を持つことができない。

したがって、年五%の割合で中間利息を控除することとし、ライプニッツ係数は、就労の終期六七年から死亡時二〇年までのライプニッツ係数一七・九八一〇から就労の始期二二年から死亡時二〇年までのライプニッツ係数一・八五九四を控除した一六・一二一六と認めることが相当である。

二  慰謝料

前記認定のとおり、被告仲谷は、対面信号が黄色信号、さらには赤信号にかわり(甲一八)、しかも、先行車両が信号待ちのため停車しているにもかかわらず、制限速度を上回る速度まで加速し、あえて右折専用車線に進路を変更して交差点に進入しようとした。しかも、進路前方に進行中の原告車両を見つけながら、クラクションを鳴らしただけで(警告の意味もあろうが、よけろという意味合いが強いと思われる。)、何ら制動措置や回避措置もとらないで進行を続け、その後急ブレーキをかけたが間に合わずに原告車両に衝突した。これらの事実によれば、被告仲谷の行為はきわめて悪質な運転というべきである。他方、泰彦には何らの落ち度もない。泰彦は事故直後自分が青信号であったと述べていた(甲二三)が、さぞ無念であったであろうと思われる。

事故後の経過についても、被告仲谷は、遺族である原告らに対し、誠実に謝罪せず(原告幸純の供述)、これについては弁解の余地がなく、いまだ原告ら遺族の怒りと悲しみの気持ちは鎮まらない。

したがって、泰彦と原告らは、本件事故と泰彦の死亡によって、さらには事故後の被告仲谷の対応によって、非常に大きな精神的苦痛を被ったと認めることが相当である。そこで、泰彦と原告らの本件事故による慰謝料は合計三〇〇〇万円とすることが相当であり、泰彦分を二三五〇万円、幸純分を三〇〇万円、純子分を三〇〇万円、昌倫分を五〇万円と認める。

三  諸費用

1  交通費

交通費については、父母が子の交通事故を知り、治療を受けている病院に駆けつけるのは当然のことであり、自宅または会社から病院に行くために要した、また、自宅に戻るために要した各交通費は事故と相当因果関係がある損害と認められる。したがって、原告純子が当時自宅があった昭和町から近大病院に行くまでに要したタクシー代、原告幸純が近大病院との間を自家用車で往復するときの高速代などは損害として認められ、その費用は一万円以上を必要としたと認められる(弁論の全趣旨)。ただし、本件では領収書がないことを考慮し、一万円の限度で損害と認める。

2  医療費

早野医院分合計四万〇三七〇円、近大病院分一〇四万六六七〇円(以上は支払い済み)、城山病院分一万四八〇〇円の合計一一〇万一八四〇円と認められる。(甲三四)

3  葬儀費など

葬儀費などについては、原告らは、葬儀費として合計三二六万八八七〇円(甲三五)、墓石代などとして合計一八八万〇四六四円(甲三六)、法事費として合計三九万五五〇〇円(甲三七)、追悼関連費として合計五三二万八一〇一円(甲三八)を支出したと主張する。

しかし、仮にそのとおり支出したとしても、例えば、寺院費用や祭壇飾り付け費用などについては、その内容と金額が多様であり、実際に支出した費用をそのまま損害と認めることは適切でないと思われる。また、テレホンカードやCD制作費などについては、遺族がその強い気持ちから制作支出した費用であり、これを加害者に負担させるべき損害と認めることには躊躇を覚えざるを得ない。

したがって、葬儀費、葬儀関連費用、法事費、追悼関連費として、本件と相当因果関係がある損害は一八〇万円と認める。

4  結論

したがって、損害は、別紙二のとおり認められる。

(裁判官 齋藤清文)

11-11093 別紙1 原告ら主張の損害

A 泰彦の損害

1 逸失利益 1億0865万3665円

〈1〉 基礎収入は賃金センサス(大卒)687万7400円

〈2〉 生活費控除50%

〈3〉 ライプニッツ係数(年1.5%)

33.55319195-1.95588342

2 泰彦の慰謝料 3000万0000円

3 小計 1億3865万3665円

4 法定相続分 各6932万6832円

B 幸純、純子の損害

1 慰謝料

幸純分 1000万0000円

純子分 2000万0000円

2 諸費用 各601万8972円

〈1〉 交通費 1万8170円

〈2〉 医療費 110万1840円

〈3〉 葬儀費 326万8870円

〈4〉 葬儀関連費 192万5464円

〈5〉 法事費 39万5500円

〈6〉 追悼関連費 532万8101円

〈7〉 小計 1203万7945円

3 損害のてん補(自賠責保険金) 各1500万0000円

4 確定遅延損害金 各102万7267円

(3000万円×5%÷366×23日)+(3000万円×5%÷365×477日)=205万4535円

5 弁護士費用

幸純分 700万0000円

純子分 800万0000円

以上 AとBを合計した請求額

幸純分 7837万3071円

純子分 8937万3071円

ただし、遅延損害金については、B4の確定遅延損害金を除く。

C 昌倫の損害

1 慰謝料 100万0000円

2 弁護士費用 10万0000円

3 小計 110万0000円

11-11093 別紙2 裁判所認定の損害

A 泰彦の損害

1 逸失利益 5543万7345円

〈1〉 基礎収入は賃金センサス(大卒)687万7400円

〈2〉 生活費控除50%

〈3〉 ライプニッツ係数(年5%)

17.9810-1.8594=16.1216

2 泰彦の慰謝料 2350万0000円

3 小計 7893万7345円

4 法定相続分 各3946万8672円

B 幸純、純子の損害

1 慰謝料 各300万0000円

2 諸費用 各145万5920円

〈1〉 交通費 1万0000円

〈2〉 医療費 110万1840円

〈3〉 葬儀費など 180万0000円

〈4〉 小計 291万1840円

以上損害合計

幸純、純子 各4392万4592円

3 損害のてん補(自賠責保険金) 各1500万0000円

(病院代) 各54万3520円

以上残金 各2838万1072円

4 確定遅延損害金 各102万7267円

(3000万円×5%÷366×23日)+(3000万円×5%÷365×477日)=205万4535円

6 弁護士費用 各280万0000円

以上認容額 各3220万8339円

ただし、遅延損害金については、B4の確定遅延損害金を除く。

C 昌倫の損害

1 慰謝料 50万0000円

2 弁護士費用 5万0000円

以上認容額 55万0000円

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